『骨太方針2019』に明記された
国立大学法人での学長選挙廃止の方針に強く反対します
2019年8月22日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
政府は6月21日、いわゆる『骨太方針2019』(『経済財政運営と改革の基本方針2019』。以後、「骨太方針」と言う。)を閣議決定しました。その中で、高等教育政策について言及し、今後の方針をしめしている箇所があり、その内容が今後の日本の大学・高等教育に甚大な悪影響を及ぼすものであることから、ここに問題点を指摘し強い反対の意思を表明します。
骨太方針の70ページには、次のように記されています。
「国は、各大学が学長、学部長等を必要な資質能力に関する客観基準により、法律に則り意向投票によることなく選考の上、自らの裁量による経営を可能とするため、授業料、学生定員等の弾力化等、新たな自主財源確保を可能とするなどの各種制度整備を早急に行う」
ここに書かれている意向投票とは、大学の構成員の意向を調査し、それを参考にしつつ学長を選考するために行われる投票のことで、いわゆる学長選挙です。大学において、選挙結果にもとづき学長選考を行う、あるいは少なくともその参考にする、ことが従来行われてきました。これは、大学が時の権力の支配・介入を受けることなく、自治的に組織運営を行うため、その制度的根幹として必要であったからです。現在すでに、国立大学法人法の下で、学長選挙が廃止され、あるいは実施されても学長選考会議がその結果を反映せず学長を選考する事態が進行しています。このようにして選考された学長が、教職員の支持の基盤を持たないがために、教職員の声に耳を傾けることなく、専横的な大学運営を行う事例が増えています。例えば多くの大学で近年行われている学部改組は、学長や大学執行部のトップダウンで進められ、現場の教員どころか学部長など部局の執行部の意見も反映されない状況があります。その結果、教育研究現場の混乱や教職員の反発を招く事態が生じ、構成員の無用な意見対立を助長している事例を全大教では複数把握しています。
構成員の選挙を通じて学長を選考するというのは「知の共同体」である大学のガバナンスの原則として世界の多くの大学で尊重されている原則です。大学のガバナンスを営利追求の株式会社のガバナンスと同一視することは出来ません。実際、大学の構成員の意向を正しく汲めていないことが、大学が機能不全、不健全な状況に陥る原因となっています。学長は学内構成員の幅広い支持の上にこそ、権威が発生し、大学を健全に運営し発展させることができるのであり、その基盤が学長選挙です。
2014年の国立大学法人法改正にあたっても、学長選考については、学長選考会議が自律的に選考することという、法人化以降の原理は貫かれています。そして、同法・同法施行規則一部改正の施行通知でも、「いわゆる意向投票を行うことは禁止されるものではない」ことが明示されています。これは、国会審議を通じ、国立大学法人法改正が大学自治への介入になるのではないかという質疑の中で繰り返し行われた答弁を反映してのものであり、非常に重いものです。
2019年5月に国立大学法人法が改正され、一法人複数大学を採る法人に加えて一法人一大学であっても「理事長(仮称)」と「学長(この場合の正式名称は大学総括理事)」を分離することができる制度になっています。骨太方針文中の「学長」が法人内のいずれの役職をしめすものか不明確であり、理事長・学長もろとも、意向投票を行わず選考すべきだという政策の方向性であれば、いっそう問題の大きいものです。
さらに骨太方針には、「国は国立大学との自律的契約関係を再定義し、真の自律的経営に相応しい法的枠組みの再検討を行う」という記述があり、これは国立大学法人制度の総括も行わないまま、なし崩し的に制度見直しを始めようとする姿勢をしめしたものであり、これも大きな問題です。
これら学長選挙廃止や国立大学法人制度の性急な制度変更の考えに強く反対し、これらのすみやかな撤回を求めます。