国立大学・高専・大学共同利用機関で働く教職員の賃金改善を求める
~2019年人事院勧告を受けて~
2019年8月7日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
本年の人事院勧告は、月例給を平均387円(0.09%)・勤勉手当を0.05月分引上げることとした。日本経済がいまだに景気停滞を脱却できないのは、個人消費を支える労働者層の可処分所得が伸びないことが主たる要因であることは一層と鮮明になってきている。こうした問題意識は社会的にも共有されつつあり、最低賃金の上昇幅も大きくなってきているが、俸給表の下位部分において地域によっては最低賃金に抵触しかねない状況もみられる。こうした観点からも今回の人勧の消極的な賃金改定は、今般の社会情勢に十分応えているとは言えない。
国公立大学・高専・大学共同利用機関(以下「国立大学等」とする)の教職員は非公務員であるので、人事院規則や一般職員の給与に関する法律などに拘束されない。独立行政法人通則法 第50条の10によると、国家公務員の給与を考慮することが示される一方で民間企業の従業員の給与等も考慮することとなっている。国家公務員の行政職(一)適用職員の給与水準を100として比較した国立大学等の事務・技術系職員(以下「事務職員等」とする)の賃金水準(ラスパイレス指数)は、法人化後一貫して100を下回り続けてきた。また、学校教員統計調査によっても、国立大学教員の平均給与月額が法人化後、私立大学教員のそれとの比較で相対的に低水準であることがわかっている。こうした指標からも国立大学等の教職員の賃金は、むしろ大幅に改善することを強く求める。
しかし、各法人に配分される運営費交付金のうち、特に教職員の人件費を支える基盤部分は、法人化後一貫して削減され続けてきた。その結果、事務職員等の定員削減により年々繁忙化し、常勤教員ポストの不補充・凍結を余儀なくされ、人勧による地域手当の改善すら実施できない法人も少なくない。
こうした各法人の財務的な困窮は、人件費部分のみならず教育・研究部分にも大きな困難を強いている。研究はおろか学生実験すら満足にできないほど教育研究費を減らされ、それを補うための外部資金獲得に教育研究時間を奪われ、時間のない中で短期的な研究成果を要求されている。
このように国立大学等の疲弊が極限に達しようとする中、政府は昨年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2018」、「未来投資戦略2018」、「統合イノベーション戦略」を閣議決定し、その中で国立大学等に対する「人事給与マネジメント改革」を打ち出し、教員に対して一層の業績評価と年俸制の適用拡大を求めているが、国立大学等への予算総額は拡充せずに予算の再配分によりこれらの措置の実施を推し進めようとしている。
これらの方針の背景には、「国立大学等は論文一本あたりの生産性が低い」とする財務省筋の主張が見え隠れする。しかし、国立大学等の論文数の減少は、これまでに述べたように、国立大学等への予算削減と、過度な「選択と集中」による当然の帰結である。乾いた雑巾を更に絞るかのような「人事給与マネジメント改革」は、政府の意図とは裏腹に、日本の教育・研究をさらに衰退させかねない愚策である。
日本の高等教育・学術を現場で担う私たちは、その使命を自覚し、全国の仲間の力を結集する。そして、あらゆるチャネルから社会への働きかけ、教育・研究・医療を充実させていくことと併せ、賃金・労働条件を改善する取り組みを今後も継続していく決意である。