-運営費交付金の競争的経費化を行わず、地域社会と人類社会
の文化・福祉増進へむけた大学・高等教育の基礎基盤確立を-
中央執行委員会声明 声明 「骨太方針2007」閣議決定にあたって-
運営費交付金の競争的経費化を行わず、地域社会と人類社会の
文化・福祉増進へむけた大学・高等教育の基礎基盤確立を
2007年6月22 日
全国大学高専教職員組合 中央執行委員会
運営費交付金の競争的経費化に続出する学内外の批判の声
「地方大学をつぶす気か」「公平さを欠く」「都市との格差が拡大する」「地方軽視」、これらは、「骨太方針2007」審議において、わき起こったマスコミ等の声です。
経済財政諮問会議では、「運営費交付金の競争的経費化」「国立大学の大胆な再編統合」が提起され、財務省の財務制度等審議会もこの立場での報告を出しています。
こうした動きに対して相次ぐ学長声明等大学人、地方自治体、マスコミ等による批判が続出しています。
こうした中で、6月19日に閣議決定された「骨太方針2007」では、「素案」で明記された「運営費交付金の大幅な傾斜配分」(財務省等の試算では、運営費交付金の競争的経費化により、85%の国立大学で運営費交付金が削減され、一部の大規模大学に予算が集中化。)という表現は修正され、「文部科学省は、運営費交付金の配分については、①教育研究面②大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき適切な配分を実現する。その際、国立大学法人評価の結果を活用する。」とされています。
同時に、重大な問題として「骨太方針2007」では、「文部科学省は、国立大学運営費交付金については、次期中期目標・計画(平成22年度~)に向け、各大学の努力と成果を踏まえたものとなるよう、新たな配分の在り方の具体的検討に早期に着手し、平成19年度内を目途に見直しの方向性を明らかにする。」とされ、19年度中に次期中期目標の運営費交付金新算定ルールを策定することが明記されたことです。また、合わせて「国立大学の大胆な再編・統合」も明記されています。
このように、国立大学の運営費交付金の競争的経費化と中期目標・中期計画終了時の評価に基づく資源再配分、大学の再編・淘汰をめぐる問題は連動した関係にあり、引き続き重要な焦点となっています。
削減続く運営費交付金による教育研究環境の切り下げ
国立大学の運営費交付金は現時点でも、毎年定率で削減され、平成16年の法人化以降すでに371億円もが削減されています。この結果、国立大学の収入のうち運営費交付金は半分を切っています。その使途も、人件費や水光熱費などの施設維持費など基盤的な経費にあたります。こうした状況から、個々の研究室単位の年間教育研究費は、法人化以前に比べて大幅に削減され、文部科学省が挙げた地方大学の事例では約40万円ですが、それを下回る水準の大学も少なくありません。結果として、研究の進展はおろか、通常の講義を行うための経費にも事欠き、実験をコンピューター上のシミュレーションですませたり、講義に使う資料の印刷費用が相当額にのぼり、印刷が困難という事例もあらわれ、残念ながらすでに学生教育にもしわ寄せを強いられる状況に達しています。
大学間格差拡大と貧困な公的支出
こうした劣悪な教育研究環境が生じている原因には、競争原理にもとづく資金配分による大学間格差がすでに拡大してきているという状況があります。先の試算で増額傾斜配分が想定された大学は、現在実施されている競争的資金(21世紀COEや科学研究費)がすでに大幅に支出されています。さらに国立大学時代からながらく旧帝大としてとりわけ巨額の資金が投入されていたことも付言しておかねばなりません。
そもそも高等教育に対して支出される公的財政は諸国と比較してきわめて心もとない状況なのです。公的財政から高等教育に支出される経費は、欧米はおろか、中進国を含んでも最低の水準に属しており(対GDP比0.5%でOECD加盟国平均1%をはるかに下回り、最下位)、他方で私的負担はヨーロッパ諸国よりも大きな割合となっています。
厳しい環境にもかかわらず果たしてきた社会還元への努力
国立大学には、全般的な緊縮財政のもとで、「無駄を省く経営努力」や、そうした努力が「評価」されて資源配分が行われることを求められていることはよく承知しています。国立大学関係者は漫然と公費拡大を求めているのではなく、すでに否応もなく、多種の私立・公立大との研究費公募競争にも取り組み、他方で国家公務員と同様に人件費を削減し、先に挙げたような研究費さらには教育経費切りつめを行わざる得なくなっています。
そうした厳しい環境の中でも、国立大学は総体として、喧しく論議されている産業界に貢献する先端研究はもとより、それだけでなく広範な国民にむけた多様な機能を果たしています。とりわけ地域社会において重要な機能を果たしていると自負しています。医師や教員など地域を担う人材育成の中核として、また、地域と密着した地場産業の支援、市町村を含む自治体や地域NPOとの共同による政策立案研究、公開講座等生涯教育についての拠点として、都市部との格差が拡大する中で、文化教育・産業振興面でこれを補う多様な役割を果たしています。また、直接的には、大学が教育研究上に費消する支出は地域雇用から施設維持管理の公共事業、物品の購買などにわたり、また、数千から万におよぶ学生・教職員の消費生活自体も含めて、大学の持つ地域経済への波及効果はプロスポーツ団体のそれを上まわるとされています。
先端分野の成果は裾野の広い学問分野を基礎としたもの
地方国立大学を切り捨てて、その資源を先端的な研究成果を期待できる大規模総合大学に集中しても、学術全般でも、ましてや変転の著しい先端的な科学研究であればこそ、数の限られた先端大学だけでなく、多数の地方大学が支える多様で広範な裾野となる基礎基盤的な研究分野の土台がないことにはたちまち行き詰まってしまうでしょう。
自然資源に乏しいわが国では人材こそが将来にわたって持続可能な社会を維持する重要な資源です。また、急速な少子高齢化の進行により、次の社会を担う市民の養成の重要性はますます強まっています。とりわけ、拡大する経済的・地域的格差の実態と、地球的規模で進行する環境変化、収まることのない国際的な緊張状態に思いをいたすなら、近視眼的発想ではなく、他者および自然との共生を意識しながら、人類社会全体の文化・福祉を追求できる中・長期的視野に立つ研究と人材育成こそ求められているといえましょう。
安定した教育研究の基礎的基盤の充実を求めます
私たち国立大学等で働くものはそうした広い視野を持つバランス感覚ある地球市民の養成のため、人格形成の基礎となる分野から国際社会をリードする先端分野まで、理工医系から人文社会科学のいずれもおろそかにしない均衡のとれた学術文化の発展を希求する必要があると考えています。
そのためには、安定した教育研究を行う基礎的基盤の確立が求められ、今日の国立大学財政でその役割を果たすのはまずもって運営費交付金です。したがって、今年度内に定められるという新たな運営費交付金配分ルールには、国立大学法人法制定時の国会審議と附帯決議を踏まえて、基礎的基盤的経費としての充実を強く求めます。
同時に、地域社会を含む国民各層からの多様な要請に応え続けるためにも、また人類社会の文化・福祉増進のために、教育研究費の拡充が行われるよう私たちは訴えるものです。
また、その実現に向けて、高等教育の社会的応援団形成を形成し、大学・高等教育危機打開の取り組みをさらに進めるものです。
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