国際規約・政府報告に関する意見
意見書 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約・政府報告に関する意見
1.私たちは、高等教育への「無償教育の漸進的導入」を謳った「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」(以下、「社会権規約」と略す)第13条2項(c)に対する留保について、第3回政府報告においてはその解除に向け真摯な検討を行なう旨を明記すべきである。
2.日本政府はこの間、奨学金制度や授業料減免措置などによって高等教育を受ける権利と機会はかなりの程度実現しているという理由で、留保を解除する必要がないことを主張している。しかしこの理由が成り立たないことは明白である。日本の大学の学費は国公私立を問わず、戦後60年間一貫して高騰を続けており、世界でも突出して異常な高学費となっている。また奨学金についても、欧米諸国のほとんどが返済義務のない「給費制」を整備しているのに対し日本の奨学金はすべて「貸与」であり、極めて重い学費負担を先送りするのみで本質的な負担軽減に資するものではない。
家計の学費負担が限界に達していることは種々の調査で指摘されているところである。しかし、政府は負担を軽減するための有効な施策を何らとっていないのであり、機会均等がかなりの程度実現しているどころか、憲法・教育基本法にも反する経済格差による教育上の差別は放置されたままである。
3.そもそも、日本の高等教育予算のGDPに占める割合は、OECD平均の半分以下のわずか0.5%と同加盟国の中で最低位に属している。そのため、高等教育における家計の自己負担率が世界的にもきわめて高く、家計の経済的格差によって教育を受ける権利が阻害されているばかりでなく、高等教育機関における教育・研究の遂行にさまざまな障害をもたらしている。
政府はこうした問題を改善するどころか、状況をより深刻化させる政策をとっている。国立大学運営費交付金については2004年度より毎年1%の効率化係数及び経営改善係数2%が加えられ、毎年の削減が続いているく。私大等経常費補助については一般補助の抑制・削減により経常費補助率は約12%という低水準に留められ、さらに07年度予算からは毎年約1%削減される方針が採られた。政府は今後さらに予算の競争的配分、重点配分を強める方針を打ち出している。「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会の最終見解」が出された2001年に比しても、状況はさらに悪化している。
4.1979年の社会権規約批准当時、園田外務大臣は国会において、国として留保を解除する方向に努力する責任があることを表明した。その際の衆参外務委員会ではそれぞれ、留保に関して「将来の諸般の動向をみて検討すること」を明記した決議が全会派一致で採択された。その後も3つの法案に関する国会附帯決議において、「諸般の動向をみて留保の解除を検討すること」が衆参でそれぞれ採択されている。しかし、批准から今日に至る30年弱の間、政府、とりわけ責任省庁である文部科学省がこの問題をまともに検討した痕跡はまったく見当たらない。政府は社会権規約委員会に対して、留保を維持する必要性として「非進学者との負担の公平」や「私立大学の割合が大きいこと」を回答しているが、これらは然るべき公の場所で慎重に検討されて出された結論ではなく、当然、国民的に合意されたものではない。
80年代以降、政府は国会の要請にも、国連からの勧告にも背を向け、検討の俎上に載せることさえ避けてきたのである。今回の第3回政府報告についても、提出期限の2006年6月からすでに1年以上経過して、ようやく1回目の意見交換会が開かれる状況である。日本政府がこの問題を軽視あるいは無視していることは明らかである。
5.これまで私たちは政府・文部科学省に対し、高等教育予算をOECD平均レベルに増額すること、学費負担を軽減し、学費の値上げを抑制し逓減するための諸施策を実施すること、それらを担保するために社会権規約の高等教育無償化条項に対する留保を撤回することを繰り返し求めてきた。しかし政策は、私たちの要望と逆行する方向へと進んでいる。今回の政府報告作成にあたり、高等教育を受ける権利と機会均等について、大学関係者および広範な国民・市民の声を聴き取り、十分な検討を重ねることを要望する。また、検討された内容、資料はすべて公表し、国民に対する説明責任を全うすることを要望する。
以上
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