国公立大学・高専・大学共同利用機関で働くすべての教職員の賃金改善を求める
~2017年人事院勧告を受けて~(声明)
昨日、人事院の国家公務員給与に関する勧告(以下「人勧」とする)が出された。
民間賃金は、金融の異次元緩和や規制「改革」などサプライサイドに偏した第二次安倍政権の景気刺激策が行き詰まりつつある国民経済の状況を反映して、昨年に引き続き小幅の賃金改善に留まり、2017年夏季の一時金については前年比で下落傾向もみられていた。
そうした中で本年の人勧は、2017年4月の官民給与実態調査に基づく月例給の引き上げ幅は平均631円(0.15%)と昨年以下の水準となり、2016年冬季・2017年夏季の一時金の官民比較に基づく特別給は4.40ヶ月(前年比0.10ヶ月分の増)となった。
国立大学法人等の教職員の賃金は、非公務員でありながら、独立行政法人通則法などの法令や国家公務員給与を基準に退職手当を予算措置する特殊運営費交付金制度などの要因によって、今なお人事院勧告及びこれに基づく公務員給与改定の影響を大きく受ける状況にある。
しかも、教職員の人件費を含め国立大学法人等の人件費を支える運営費交付金のうち、基盤的な経費に充てる部分が公務員給与や民間賃金の変動にかかわらず年々削減され続けていることが、公務員給与改定によるもの、処遇改善や人材確保など他の理由によるものを問わず、賃上げはおろか現行の賃金水準の維持をも困難にする構造的要因をもたらしている。
これらの制度的・財政的な「縛り」のもとで、使用者としての国立大学法人等が、人勧がマイナス勧告であれば公務員準拠を理由に早速これに従おうとし、逆にプラス勧告であれば法人財政を理由に極力賃上げを回避しようとする「ダブルスタンダード」への誘惑に常に駆られる状況が存在している。
こうした状況の中、私たち全大教と加盟組合はこれまで、法人当局のダブルスタンダードを批判しつつ、また不利益変更の強行を極力阻止しながら、人勧水準以上の賃上げの可能性を追求するという厳しいたたかいを余儀なくされてきた。
国家公務員の行政職(一)適用職員の給与水準を100として比較した国立大学法人等の事務・技術系職員の賃金水準(ラスパイレス指数)は、法人化後一貫して100を下回っているが、2014年度に88.4、2015年度は88.1、直近の2016年度は87.6と年々低下の一途をたどっている。
国家公務員に比較対照職種がない教員について、国立大学法人化の直前の年度の国家公務員行政職(一)と国立大学教員の俸給表である教育職(一)の給与水準との比率を100として現在の国家公務員行政職(一)適用職員と国立大学教員の賃金水準の比を計算すると、同じく直近の2016年度のデータで96.5となり、これは国立大学教員が国家公務員行政職との比較による相対的な賃金水準が法人化後の14年間に平均3.5%低下したことを意味する。また、学校教員統計調査によっても、国立大学教員の平均給料月額が法人化後、私立大学教員のそれとの比較で相対的に低水準化が進んでいることがわかっている。
こうした客観的データを参照するだけでも、国立大学等教職員の賃金は社会一般情勢に適合するどころか、そこからの逸脱を広げている状況にあり、本年の人勧程度の賃上げでは、適正な賃金水準への回復には不十分であることは明らかである。
各国立大学法人等に対し、本年の人勧の水準を上回る賃上げ実施を強く求める。
国立大学法人等における賃金水準の低迷には、ここ10年余の人勧が公務員の労働基本権制約の代償措置としての役割をないがしろにし、「給与構造改革」、「給与制度の総合的見直し」などとして公務員給与の地域格差、また中央省庁と地方出先機関との格差を拡大させる道をひた走ってきたことも影響している。そのような内容の人勧に準拠した賃金改定を繰り返してきた結果、地方に所在する国立大学・高専等では、賃金水準が累計で1割近くも低下しているケースもあるのである。
賃金交渉において人勧の影響を受ける立場の労働者で組織する労働組合として、人事院が労働基本権の制約を受けている公務員の労働条件を公平適切に保障するという現行制度のもとで果たすべき本来の役割に立ち返ることをあらためて求める。
法人化後、国立大学法人等の多くで行われてきたことは、人勧と財政の二つの理屈を使い分けながら教職員の賃金水準を低迷させることだけではない。退職者不補充などの人員削減によって教職員の労働負荷を増大させ、さらには教育研究活動に必要な最低限の経費をも削ってきた。教育研究経費の削減は、少なからぬ研究者が経費の自己負担を余儀なくされるところまできている。
さらに非正規雇用の教職員に対しては、何ら具体的必要性の認められない「解雇リスクの回避」をほぼ唯一の理由に、労働契約法による無期雇用転換権の発生を免れるための雇い止め、不更新条項の設定などの脱法的対応に腐心している法人が今なお少なくない。
こうした国立大学法人等の経営の在り方と、そのような経営が行われる原因を作っている国による制度的・財政的「縛り」は、日本の高等教育・学術の将来を暗くするものである。
全大教と加盟組合は従来から、高等教育への公財政支出の水準を抜本的に向上させ、その中で国立大学法人等に対する運営費交付金を拡充し、基盤的経費を充実させることを政府に対して求めてきた。また、学長らが教職員の雇用・労働条件、教育研究条件の保障のために、政府への要求等を含めて経営責任を果たすことを求めてきた。
教職員の賃金水準の引き上げの要求は、教育研究条件の保障、非正規雇用教職員の安定雇用の実現などの要求と「あれか・これか」という関係にたつものではない。それらを同時に追求し実現することこそが、日本の高等教育・学術を現場で担う私たちの使命をより良く果たす途であると確信する。全大教中央執行委員会は、全国の力を結集し、労使交渉を通じて、またその他あらゆるチャネルからの社会への働きかけを通じて、要求実現をめざす決意を表明する。