大学病院は大学での医学教育・研究に不可欠であり大学設置基準改正案は撤回すべき
~大学病院を大学から切り離し別法人とすることを可能とする学設置基準改正案に関する見解~
2016年11月28日 全国大学高専教職員組合中央執行委員会
同 病院協議会幹事会
はじめに
文部科学省は、大学設置基準第39条第1項を改正し、またそのことに関する告示を発することによって、現在は医学・歯学教育を行う大学は附属の病院を設置することを義務付けているものを、地域医療連携推進法人に参加する法人が設置する病院での教育研究の機能が確保されている場合にもその要件を満たしたものとする、すなわち大学から切り離すことを可能とするように変更しようとしている。
大学附属病院の主な役割は、教育・研究・診療の三つにある。大学に固有の役割である教育・研究の機能が、別法人が設置している病院において十分に発揮されるのか、重大な疑問をもつものである。
医師となるための臨床教育は大学病院を中心に行われている
日本において、医師・歯科医師をめざす者は、大学の医学部・歯学部の課程を修了し、その上で医師国家試験に合格して初めて、その資格を認められる(医師国家試験予備試験合格者、外国の医学校卒業、外国での医師免許取得者を除くと)。したがって、大学の附属病院は将来の医師・歯科医師の臨床教育を受ける中心的な場である。そうした役割を担っていることから、医学部を置く大学の附属病院は総合病院であり、ひろく多様な診療科を設置している。
教員であり医師である医学部教員が医学の進歩と教育を担い、大学病院は「地域医療の最後の砦」
大学の医学部・歯学部の臨床系教員は、附属病院での診療を行っている。そうした教員が、医学部・歯学部における授業を担当しており、さらには最先端の医療の進歩のための臨床研究も同時に行っている。こうした態勢が、教育・研究・診療の不可分かつ相乗効果を生んできたのであり、現在の高度で安全な医療体制の礎であった。こうした体制によって、大学病院は、高度医療、急性期医療の中心的存在となり、「地域医療の最後の砦」として、各地域における代替不可能な役割を担ってきた。
附属病院を別法人化することを可能とする今回の制度改正は、相互に密接な関係を持ってきた大学病院での教育・研究・診療の関係を壊すおそれが非常に強い。大学とは切り離された別法人の病院において、教育研究の機能がはたして従来水準で発揮されるかは大いに疑問である。結果として医師・歯科医師等の充分な教育、研修が担保されず、将来的に日本の医療水準を引き下げるおそれがあると言わざるをえない。
改正の目的である地域医療連携推進法人制度自体が大きな問題をもったもの
今回の大学設置基準改正等の目的は、大学の附属病院を地域医療連携推進法人に参加させることにある。地域医療連携推進法人制度の目的は、地域医療の医療機関の連携による「効率的運用」であり、その先には、病院の統廃合、病床数の削減、法人間のさまざまな連携による効率的な病院経営がある。効率性の重視の観点が先行すれば、地域医療と医学教育の質が保証されず、低下が余儀なくされるおそれがある。地域医療連携推進法人に参加する病院として、地域医療連携の基軸的な役割を果たすこととなった病院が、地域の医療の効率化から、診療科や病床数の削減に率先して取り組む立場に立つこととなり、これまで大学病院が果たしてきた、教育・研究を最重視する観点から大きく逸脱するおそれは大いにあると言わざるをえない。
大学の附属病院を必置とせず、切り離した上で別法人とすることも可能とする今回の大学設置基準改正は、医学の教育・研究の水準を引き下げ、また、地域医療を崩壊させる危険性を伴うものである。拙速な改正を行うべきではない。改正案は一旦撤回した上で、国民・関係者の意見を広く十分に聞きながら、慎重に検討を進めるべきである