大学教員の「働き方改革」に関する声明
2020年1月6日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
長時間労働の是正などを目的とした「働き方改革」が実施され、そのなかで、労働時間の状況の把握や、時間外労働の取り扱いが厳格化されつつある。しかしながら、これらの規制が大学教員の労働時間の自由な設計と相いれない面があるとして、大学教員の働き方への法規制に関して議論が起こっている。
大学教員の主たる職務の一つである研究は創造的な活動であり、大学教員が自由な意思に基づいて活動できるよう、労働時間に関しても大学教員が自由に設計できることが望ましいことは当然である。しかしながら、国立大学の経営の実態やその下で大学教員が置かれている現状を踏まえれば、留意すべき点があり、労働時間の自由な設計のみを主張する意見には慎重にならざるを得ない。
近年、大学の業務のうち、学生教育とそれぞれの大学のミッションに沿った全学的な取り組みの比重が増大している。その中で、大学教員が行う業務も、授業や授業準備、学生対応等の教育業務と、大学の組織的業務にかかわる会議や資料作成、入試業務等といった、研究活動以外の非裁量的業務が増大している。
文科省が実施した「平成30年度大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」によると、大学教員の勤務時間に占める研究活動時間の割合は平均で32.9%であり、講師以上の専門業務型裁量労働制の適用条件である最低研究活動時間である5割をはるかに下回っている。
専門業務型裁量労働制の適用をうける研究者が、みなし労働時間をはるかに超えて深夜・休日にも研究活動を行っている背景には、「労働時間を自由に使いたい」というニーズ以前に、こういった非裁量的業務の増大により、深夜・休日に研究活動を行わざるをえない、という面が大きいことを看過すべきではない。教員が自由な発想に基づく研究を行うことができる時間を確保するためには、大学の業務を整理し、非裁量的業務を縮減する等の改善を行うことこそ、最優先で求められている。
大学教員の研究活動には、所属する大学の業務と不可分な研究と、研究者としての成長を目的とした面が強い自己研鑽的な研究とがある。大学という機関は大学教職員の働きにより成り立っており、大学の業務と不可分な研究に関する時間に対しては、非裁量的な業務と位置付けられ、適正かつ相応の対価の支払いが行われるべきである。厚生労働省が病院に勤務する医師の自己研鑽について行なった通達を参考にすれば、少なくとも、所属する大学の業務と不可分な研究や、行わなければ制裁がなされたり低評価につながったりするような研究は、非裁量的な、あるいはそれに近い業務であるから、それらが深夜・休日に行われた場合には割増賃金の対象と整理すべきであるし、逆に非裁量的業務を適正な範囲にさえ抑えておけば、それによって自由な研究を阻害するような心配はない。
この問題に関しては、大学教員への「高度プロフェッショナル制度」の拡大など、労働時間の規制を緩和する方向での検討を主張する声もある。しかし、非裁量的業務が増加する一方である大学教員の働き方の実態を踏まえずに、労働時間の規制を緩和することは、対価の支払いが伴わない「働かせ方」をますます強めることになりかねないのは、大学に限らない原理であろう。
労働時間規制の緩和よりも、大学の業務自体の精選と、大学教員の業務の内訳の整理を行うとともに、教育研究を支える教職員の増員やそれを保障する基礎的な運営費交付金の増額を行うことなどが、大学教員の自由な学術研究活動の充実と健康確保を両立させるためには必要なのである。