大学入学共通テストの記述式出題を中止し、
大学入試のあり方見直しの原点に立ち返った議論を
2019年12月6日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
現在の大学入試センター試験にかわる、全国規模の大学入試のための共通テストとして、大学入学共通テストが、現在の高校2年生が大学受験をする、2020年度から実施されます。
その中で予定されていた、英語の民間試験利用については、多くの反対の声があがり、わたしたちも9月24日に延期を求める声明を発表しました。結果として、萩生田光一文部科学大臣が、今般の導入を見送り、2024年度実施の試験から導入することとして、1年を目途に検討して結論を出すと表明するにいたりました。受験を準備してきた受験生をはじめ関係者にとってはギリギリのタイミングであり、判断がより早くなされれば混乱は小さかったであろうとはいえ、延期・再検討という英断を評価します。今後は、民間試験利用を実施するか否かを含め、専門家の意見を十分に尊重しながら開かれた議論をおこなうことが必要です。
大学入学共通テストには、さらに他の問題点があり、11月以降、広く指摘されています。国語・数学の出題の一部に、「記述式」で解答する問題を採用することとなっています。その採点に関わり、実施の実現性への疑問が噴出しています。
《記述式が抱える問題点》
50万人規模の受験生の記述の採点は民間業者が受託しましたが、採点者にアルバイトを雇用して使うことや、画像データを送付して自宅等での採点もありうること、そして極めつけは、試験問題に対する採点基準や正答例を事前に民間業者に渡しておかなければスケジュール的に実施が不可能であること、など、大学入試としての公平性やセキュリティ問題をクリアできていないのではないかという不信が大きく広がっています。
そして、より根本的な問題は、50万人規模の共通テストで実施する記述式問題は、記述式が目的とする思考力等を測り、そのことによって高等学校での学習の意欲と方向性を改善することにつながらないことです。採点の公平性を追求すればするほど、採点基準を統一しなければならないという壁に阻まれ、受験生の創意工夫が発揮できない設問しかできません。大学入学共通テストに記述式を導入する意義自体がまったくないのです。
《現在の大学入試改革 ――理念の放棄と変質――》
そもそも、大学入学共通テストは、「高大接続改革」の一環としての位置づけの中で、とくに、高等学校の時期の学習意欲の維持を大きな目的として、大きな抜本的改革としてスタートしたはずでしたが、2014年の中教審答申でうたわれていた、現行の科目を越えた総合的な評価を目指すこと、複数回受験を可能とする、1点刻みにとらわれない、英語民間試験活用等々の、当初の理念に関わる根幹部分が、すでに抜け落ちています。現時点では、受験生の立場から見て種々の不安・不信の残る記述式だけが残っている状況で、これではとても抜本改革と言えるものとなっていません。
《日本の教育全体の改善に資する大学入試改革を》
たしかに、大学入試は、初等・中等教育での学びの方向性を規定しており、大学等での高等教育をふくめた、日本の教育全体を考えるときに、大学入試改革は一つの重要な課題です。そうした問題意識でスタートしたはずの、高大接続改革の一つの柱である大学入試改革が、前述したように、抜本改革からはほど遠い状況であることが露呈していることは、大きな問題です。
《記述式の中止と大学入試改革の幅広い検討を》
わたしたちは、大学入試改革が日本の教育全体のより良い発展につながるよう、つぎの2点を声明します。
1. 大学入学共通テストの、国語・数学の記述式の導入を中止することを求めます。
2. 大学入試改革に関する議論は必要であり、今後あらためて、専門家の意見を尊重しながら国民的な議論のもとで検討していくべきです。