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    2022/01/25

    全大教中央執行委員会見解を発表しました

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    政府による「大学ファンド」「世界と伍する研究大学」の検討に関する見解
    2022年1月25日
    全国大学高専教職員組合中央執行委員会
      見解 

    【 要 点 】

    ・「大学ファンド」からの資金は、大学自治の後退につながる「大学ガバナンス改革」と結び付けることなく、多くの大学の支援のために幅広く提供・活用することを求めます。

    ・「大学ファンド」からの資金提供が始まった後も、大学運営の基盤となる、自由裁量で使える運営費交付金を充実させることを求めます。

    ・「大学ガバナンス改革」としてトップダウン体制の強化を進める方向性を転換し、大学構成員のチェック・牽制による大学運営を行う仕組みを構築することを求めます。

    ・「大学ファンド」の支援対象大学に3%の事業成長を求めないこと。


    【 現状とこれまでの経緯、全大教の立場についての説明 】

    1. 政府による「大学ファンド(10兆円ファンド)」の創設と「世界と伍する研究大学」の検討の現状

     「大学ファンド」設立とその支援をうけて「世界と伍する研究大学」をめざす大学群を創成するための政府の取り組み・検討が行われています。

     政府は、2020年度の補正予算、2021年度の本予算と補正予算、および2022年度の予算案で、政府一般会計と財政投融資を活用して総額10兆円の基金である「大学ファンド」を設立し、計画では年率3%の運用益を見込んで、その運用益を「世界と伍する研究大学」への支援や博士課程人材への支援に充てるとしています。

     この「大学ファンド」による支援を受ける国公私立大学は、「世界と伍する研究大学」にふさわしい制度改革を実行するとして、それぞれの設置形態ごとに定められている従来の大学制度の特例を設ける検討がされています。

     政府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は、その下に専門調査会を設置し「世界と伍する研究大学」の在り方と「大学ファンド」の資金運用を検討し、1月19日の会合では「世界と伍する研究大学」の在り方に関する「最終まとめ(案)」を審議しています。また、文部科学省に「世界と伍する研究大学の実現に向けた制度改正等のための検討会議」が設置され、制度改正、規制緩和等について審議が続けられています。「大学ファンド」は2021年度には運用を開始し、また「世界と伍する研究大学」のための制度改正は2022年通常国会および2023年通常国会に法案提出を目指すとされています。


     CSTI専門調査会の「最終まとめ(案)」では、「世界と伍する研究大学」像として、以下のように指摘されています。すなわち、

    ・ファンド支援対象となる「世界と伍する研究大学」は、世界トップクラスの研究者が集まる大学としての機能を強化し、研究成果の社会的価値や人材輩出等をとおして資金の循環を生み出す、

    ・その実現のために、「世界と伍する研究大学」は年3%の事業規模成長を達成し独自基金の拡充を行う、

    ・こうした成長を続けるための体制として、従来の大学制度とはことなる特例を設ける(国際卓越研究大学制度(仮称))。すなわち、大学のビジョンを描く意思決定の責任主体としての合議体(ガバニングボード)をあらたに置き、そのビジョンの執行は法人の長が行い、教育研究の総括責任者としてプロボスト(大学総括理事)、財務戦略の立案、実行はCFO(事業財務担当役員)が行う体制をとることとして、必要な法改正等を行う、

    ・「世界と伍する研究大学」が成果を資産化していくための必要な規制緩和を行っていく、

    ・国立大学法人については、上述の合議体によるガバナンスの導入のための法改正を行う、

    ・大学の長は合議体が選考する、

    ・プロボストは、学校教育法上の学長の職を行う者とすることも考えられる、

    ・「世界と伍する研究大学」への国の関与の仕組みとして、文部科学省とCSTIが機能をもつ。


     また、CSTI専門調査会の「最終まとめ(案)」では、「大学ファンド」による支援に加え、別途、国において検討が進められている「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」と合わせた我が国全体の大学への支援の重要性が指摘されています。


    2. 大学改革に関する全大教の従来からの考え方

     全大教は、大学における教育、研究、そして大学病院での医療の充実発展をめざし、従来から大学の基盤的経費の充実を求めてきました。国立大学法人についていえば、2004年の法人化以降、運営費交付金が削減され、また基盤的経費から政策的財政誘導の色合いの濃い競争的経費への付け替えが行われることで、教育・研究基盤の弱体化、自由な発想にもとづく研究を行うことが困難な環境がひろがり結果として研究力低下につながってきていることなどを指摘し、方向の転換を求めてきました。

     さらに、国立大学法人法によって、学長の選考方法が構成員による直接選挙から学長選考会議による選考に変更されたことや、2014年の学校教育法の改正によって教授会がそれまでの審議機関から学長の諮問機関とされたことによって大学での意思決定がボトムアップの大学自治の方式からトップダウンになっていったことが、チェック&バランスが十分に機能しない大学運営を助長し、そして大学構成員が自由闊達な議論や研究活動を通じて社会に貢献し成果をあげることに反する結果につながっていると考えています。


    3. 「大学ファンド」「世界と伍する研究大学」の政府の検討に対する現時点での見解

     全大教は、前項で示した従来の大学改革に関する考え方に立脚し、現在政府によって検討されている「大学ファンド」「世界と伍する研究大学」について、現時点では以下のように考えています。


    (1) 「大学ファンド」を活用した支援について

    ・2で述べたように、運営費交付金を通じた大学への支援が不十分であったことが、研究力低下の1つの背景にあります。その点で、研究力回復のために国による資金面のフォローが欠かせません。創設された「大学ファンド」は、そうした社会と大学の成長のための原資として、ひろい範囲の大学への支援のために活用することを求めます。

    ・「大学ファンド」が打ち出の小づちのように安定的に高収益を挙げるものと期待するのは、他の政府系ファンドの実績や公的年金基金の運用実績から見て注意を要します。国内外の株式運用の比率を高めているGPIF等の公的年金の運用実績は年度ごとに大きな変動を避けることができず、大きな損失を発生させる危険性もあります。また将来的に大学独自の基金を拡大して「大学ファンド」として運用することが想定されていますが、それは運用リスクを大学自身に負わせることになります。運用リスクが大学の経営基盤に悪影響を及ぼさない制度設計を求めます。

    ・「大学ファンド」の支援対象大学に3%の事業成長を求めることは、事業成長に貢献できる「稼げる研究領域」への選択と集中を促進し、そうではないが大学や社会にとって重要な領域の淘汰を促進する危険性を高めます。それは学術研究の総合的発展を阻害するものと考えます。学術研究や人材育成を通じて社会へ貢献し、結果として社会からの期待に沿うことができる規模へと成長できる、そうした環境整備こそ必要です。


    (2) ガバナンス改革を通じた「世界と伍する研究大学」の実現について

    ・大学は、大学制度の創設の経緯やその後の発展のなかで、大学が社会に貢献しつつ発展していくためには、構成員によるボトムアップの議論にもとづき、人事や大学内の予算配分などを自治的に決定し運営していく方法が定着しており、その方法が大学の目的達成に不可欠であることが示されてきています。

    ・今回の「世界と伍する研究大学」を目指す政府の議論では、合議体をトップとした強力なトップダウンにすることを法的に規定する方向が決定されようとしています。2で述べたように、この方向性は、大学のもつ力を弱めることにこそなれ、強化し世界と伍するものとしていくことにはつながりません。法人の長の上に合議体を置く、教学の責任者を法人の長の下に位置づけるなどといった現在のガバナンス体制見直しの方向性を根本的に転換し、学長のチェック・牽制は構成員がボトムアップで行う大学自治を基盤とするものにすることを求めます。

    以上


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