「日本学術会議会員任命拒否一年経過に当たって
日本学術会議会員の任命拒否を速やかに撤回し、その独立性の尊重を改めて求めます」
2021年10月12日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
昨年、私たちは、日本学術会議が推薦した会員候補6名の菅政権による任命拒否に対して、それが「日本学術会議法」に反するばかりか、それまでの政府解釈を否定する暴挙であり、速やかに任命拒否を撤回することを求める緊急声明(10月3日)を発しました。
その後、千を超える前例を見ない数の学会等の抗議声明が行われ、国会等での追及も行われました。また日本学術会議も5度にわたり声明文・要望書を発し、政府に対して法が定める105名の定員を満たす任命を行うことを求めて来ました。
しかし菅政権は任命拒否の法的並びに学術的根拠を「人事案件だ」と説明しないどころか、日本学術会議の独立性を弱める「日本学術会議法」の改悪まで試みたまま退陣し、岸田政権が10月8日に誕生しました。「聞く耳を持つ」ことを美点とされる首相は、所信表明でこの問題に触れることがなかった一方で、「撤回しない」方針であると報道されています。
ここに私たちは、改めて日本学術会議が推薦した会員の任命拒否を政府が恣意的に行うことの問題点を再確認し、そして学術界の自治的ガバナンスの保障が日本社会の発展にとっていかに重要なのかを再認識しつつ、学術界と政府の関係の正常化への一歩として、日本学術会議が推薦した会員の任命を速やかに行い、かつ「日本学術会議法」の改悪を行わないことを求めるものです。
1.学術の発展にとって時の権力からの自立は不可欠であり、学術が権力から自立していることは、国際社会の信頼を得る上でも不可欠である。それゆえに、そうした学問の自由を保障するものとして「日本学術会議法」は、日本学術会議が政府から独立して職務を行えるように、会員の任命は日本学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が行うことと定め、政府も任命は形式的手続きであることとして来た。内閣が個々の研究者の学術的業績を評価することは不可能であるし、してはならないことであり、日本学術会議の推薦に基づいた会員の任命を直ちに行うことが、学術界と政府の関係の正常化にとって必要である。
2.憲法23条が定める学問の自由の保障は、個人的研究レベルのみならず、大学・研究所など様々な組織レベルにおいて保障されるものである。政府等が予算措置を背景に個々の研究者や組織の学問的業績を恣意的に判断し介入することは学問の自由の侵害につながる。それを防ぐためにも、日本学術会議の財政的基盤の保障は言うまでもなく、大学・研究所などへの十分な予算保障を通じて学術の営みの自由の基盤を守る責務を果たすべきである。
3.本年ノーベル物理学賞を受賞された眞鍋淑郎氏は、好奇心と自由な発想による研究が日本において衰退してきているのではないか、政府と学術界のコミュニケーションに問題があるのではないかと指摘されている。いま何よりも必要なのは、学術の自立性の尊重という観点に立った、日本学術会議と政府との関係の正常化であると考える。それは、コロナ感染下で低下した科学への国民の信頼感の回復、ひいては、わが国への国際社会の信頼を高める上でも重要と考える。