2021年度概算要求期にあたり、下記のとおり要望いたします。2021年度概算要求期にあたっての要望書
2020年8月4日
文部科学大臣 萩生田 光一 殿
全国大学高専教職員組合
中央執行委員長 鳥畑 与一
貴職におかれましては、文部科学行政、高等教育の充実、新型コロナウイルス感染症対策にご尽力されていることに感謝いたします。
2021年度概算要求期にあたり、下記のとおり要望いたします。高等教育の充実にむけてご尽力のほどよろしくお願いいたします。
記
<はじめに>
国立大学法人化以降の運営費交付金削減のもとでの競争的経費配分や消費税増税等によって、国公立大学・大学共同利用機関・高専の現場では、教育・研究に必要な人員の確保や日常運営経費の捻出もままならず、業務負担増の中で教育・研究の質を維持することすら危ぶまれる事態となっています。このような疲弊した現場を新型コロナウイルス感染症が襲うことで、教育・研究の危機は一層深刻なものとなっています。
私どもが実施中のアンケートの中間結果にも明らかなように、教職員は、新型コロナウイルスの感染防止に努めながら教育・研究を維持し国民の負託に応えるべく懸命の努力を行っています。また、思いもよらない学生生活を送り、経済的困窮に苦しむ学生からは切実な支援の訴えが出されています。
「経済財政運営と改革の基本方針2020」では「危機の克服、そして新しい未来へ」というタイトルがつけられていますが、ポストコロナの社会を展望していく上で、未来を担う若者への教育と明日を切り開く研究の推進は、最優先されるべき分野であると考えています。
貴職におかれましても、高等教育に対する充分な予算措置にむけて一層のご尽力をお願いしつつ、各要望を行うものです。
Ⅰ.新型コロナウイルス感染状況下関連
1.大学病院において新型コロナウイルス感染症対応に従事する教職員に対して、十分な手当を支給することができるよう財政支援を行うこと。
2.新型コロナウイルス感染症対応に伴い、厳しい経営状況にある大学病院の機能維持に必要な財政支援を行うこと。
3.対象者と支給額をより拡大した、継続的な給付金支給や授業料等減免などの追加の経済的支援を行うこと。
4.対面での教育・研究の再開・充実にむけて、感染拡大防止策を講じた上での教育・研究の実施体制の整備と必要な教職員数の確保等を行うための財政支援を行うこと。
5.遠隔による教育・研究の充実にむけて、遠隔授業システムの法人契約や既存サーバーの拡充、その他キャンパス内および個人における通信環境整備を行うための財政支援を行うこと。
6.業務増に伴う、時間外・深夜・休日勤務への適切な手当支給および必要な人員配置を行うための財政支援を行うこと。
Ⅱ.2021年度概算要求関連
1.国立大学法人運営費交付金の基盤的経費を充実すること。
国立大学法人運営費交付金の基盤的経費は、大学における教育・研究・医療の基盤を支え、それを可能とする人件費の原資でもある。これまでの基盤的経費の削減によって日常の教育・研究経費や承継教職員人件費を賄うことすら厳しい状況となっている。国立大学法人制度は中期目標期間での目標達成とその評価を通して改善を図っていく仕組みであるが、共通指標に基づく評価の毎年度の基幹経費の評価配分は、設定された指標に対する短期間の過度な成果主義を助長し、各大学の中期目標・計画に基づく自主的な取り組みを妨げることにつながる。また、2019年10月からの消費税増税に伴い経費が増大しており、各大学では財源捻出のためにより厳しい状況におかれている。
国立大学が長期的視点に立って自主的・自律的に教育・研究・医療の充実に取り組むことができるよう運営費交付金の基盤的経費の増額を求める。また、共通指標による基幹経費の評価配分については廃止すること。実施するとしても各大学での教育・研究・医療の充実に十分な基盤的経費を措置した上で、最小限の範囲とするよう求める。
2.国立高等専門学校運営費交付金の充実を図ること。
高専は独立行政法人として効率化係数がかかっている上、教員人員枠の整理が進められており、このことが充実した教育の実施の大きな妨げとなっている。
教員人員枠の整理や採用抑制が進められる一方で、専攻科の設立、学生・留学生対応、地域社会への貢献など、業務内容は無制限に拡大されている。業務は増え続けているにもかかわらず、国立大学や国家公務員との待遇格差改善も殆どなく、マンパワーの削減まで課されている。まさに人的資源の面で、高等教育機関としての安定的な基盤が破壊されていると言わざるを得ない。さらに、このような労働環境では今後の人的資源確保がますます困難になることが危惧される。
国立高等専門学校運営費交付金の充実を図ると共に、引き続き効率化係数廃止を追求し、それらによって必要な教員数を確保できるようにすることを求める。また、2019年10月からの消費税増税に伴い増大した経費を補填する運営費交付金増額の措置を行うことも求める。
3.公立大学の運営費交付金が適切に交付されるようにすること。
公立大学の運営費(交付金)は、地方交付税の中に措置され、地方自治体に交付されている。公立大学(法人)への交付の実態は様々であるが、交付金の本来の趣旨に反し、自治体から公立大学(法人)に十分いきわたっていないケースもある。
公立大学が、高等教育を担う大学として十分に役割を発揮できるよう、各大学に交付される運営費交付金については財政需要額等の基準を下回らないよう文部科学省の判断を示し、公立大学の充実に向けて努力することを求める。
4.大学共同利用機関運営費交付金の充実を図ること。
大学共同利用機関運営費交付金の基盤的経費の削減が続く結果、施設の維持などに困難をきたしている。安定的な基盤的経費なしに持続的な研究活動は困難である。大学共同利用機関運営費交付金の基盤的経費の増額を求める。
5.裁量労働制の大学教員の健康確保のための環境を整備すること。
大学教員に裁量労働制を適用するにあたっては週のみなし労働時間の半分以上が裁量によるものであることが定められているが、実態としては、教員の不補充や校務の増大等による多忙化で研究時間の確保が困難となっており、それゆえに、深夜や休日に業務や研究を行わなければならないという状況にある。文部科学省の調査や財政制度審議会等でも、各種研究資金申請等の学内業務の効率化を進めることの重要性が指摘されている。
こうした状況の下、働き方改革において労働時間把握が厳格化されたことを受けて、深夜や休日の研究を制限しようとする大学や、逆に大学教員の労働時間把握そのものを緩和すべきといった意見もあるが、いずれも現下の状況を改善するものではない。
教育研究の充実と個々の大学教員の健康確保の両立のために、必要な人員が確保できるよう運営費交付金の措置を求める。
6.非常勤教職員の待遇改善の促進にむけた支援を行うこと。
各大学等において、同一労働同一賃金の考えに基づき非常勤教職員の待遇改善を進めることができるよう、期末・勤勉手当の支給を促進するための運営費交付金措置、休暇等の改善を行っている先進例の紹介等、文部科学省として支援を行うことを求める。
7.有期雇用教職員の無期転換を進めることができるよう支援を行うこと。
各大学等において、有期雇用教職員の無期転換を推進することができるよう、財政面の将来不安を解消するための運営費交付金の安定的な措置、先進例の共有、無期転換ルールへの対応状況に関する再調査等を含め、文部科学省として支援を行うことを求める。
8.教職員の長時間労働を是正するための支援を行うこと。
各大学等において、教職員の長時間労働を是正し、ワークライフバランスを改善することができるよう、必要な人員補充を行うための運営費交付金措置、各法人の業務改善の先進例の共有等、文部科学省として支援を行うことを求める。
9.施設整備費を増額し施設整備の充実を図ること。
施設設備の老朽化が進み、教育研究に支障が生じている。また、災害が突発的に生じた場合の施設の復旧に係る費用も充分に手当されているとは言えない状況にある。
各大学等の施設整備費及び災害時の緊急的な復旧に対応するための予算措置をより充実することを求める。
Ⅲ.高等教育政策関連
1.国立大学改革方針にもとづく第4期中期目標・計画期間にむけた改革にあたり、各大学の自主性・自律性を重んじ、大学自治を尊重して対応すること。
国立大学改革方針にもとづく第4期中期目標・計画期間にむけた改革にあたり、各国立大学との「徹底した対話」が行われている。
この対話の状況の概要を明らかにするとともに、「対話」が国立大学法人法で規定されている中期目標制度での「組織及び業務全般の見直し」の実質的な前倒し実施とならないよう、各大学の自主性・自律性と大学自治に抵触しないよう求める。
2.年俸制を含む成果主義の運用は慎重に行うこと。
「人事給与マネジメント改革」の一環として年俸制の導入が示され、運営費交付金の評価配分の共通指標の一つとして「人事給与マネジメント改革」が挙げられていることから、各大学等では、実質的に年俸制の導入が避けられない状況にある。
過度な成果主義と年俸制の導入は、かえって教育・研究の質を下げることが危惧されることから、その制度設計・運用にあたっては、各大学等での自主的かつ十分な労使交渉と合意の上で慎重に行うことを求める。
3.若手教員の雇用と教育・研究条件の充実を図ること。
若手教員は雇用面でも資金を含む研究条件面でも中長期的なビジョンが立てにくい不安定な状況にある。運営費交付金の基盤的経費の削減によりすでに採用・昇任抑制を行わざるを得ないほどに厳しい財政状況のまま、若手教員比率の数値目標提示、業績評価の強化や流動性の向上、研究資金の重点化や外部資金の獲得等でこれを達成しようとすれば、むしろ、任期付きの不安定な雇用での若手教員の増、「若手」年齢層を超えた教員の雇用機会の減少、中堅・シニア層への業務のしわ寄せが起こることが危惧される。
若手教員の現在と将来を改善するためには、安定的な教員ポストの純増と長期の研究を可能とする研究費の措置が必要であり、各大学等でそれを可能とする運営費交付金の措置を求める。
4.定年延長の着実な実施のために運営費交付金を措置すること。
各大学等において、定年延長の着実な実施と中堅・若手層の昇任機会や新規採用の確保ができるよう運営費交付金を措置することを求める。
5.改正国立大学法人法が施行されるにあたり、各法人の判断を尊重すること。
改正国立大学法人法では、国立大学法人が複数の大学を設置する場合その他管理運営体の強化を図る特別の事情がある場合の、理事長並びに大学総括理事の選考にあたって、国立大学法人法にしたがい学長選考会議が選考あるいは意見を述べることとなっている。2014年改正の際の施行通知では、今回も改正されていない条文に関連し、意向投票の実施を妨げるものではない旨が明記されている。また、2019年9月26日の貴省との会見においても、改正国立大学法人法施行通知での「意向投票によることなく」という表現も、従来の法解釈を出るものではなく意向投票の結果に学長選考会議の判断が拘束されることは適切ではないという従前の見解を示したに過ぎない旨の見解を表明されている。
あらためて、一法人複数大学や「理事長」を置くこととなる大学にあっても、各大学の判断による意向投票の実施を妨げないことを求める。また、各国立大学法人が責任を持った独自判断ができるよう、法人統合や管理運営体制強化を行うことへの強制・誘導を行わないことを求める。
6.学生支援をより充実させること。
2020年度から始まった大学等修学支援法において、低所得層への学費減免と奨学金給付が図られたことは評価できるものの、支援対象が限定的であることから、中間所得層への支援が縮小される結果となっている。また、給付される奨学金の額についても、安心して生活を送り、学業に専念することができる十分な額とはいえない。
大学院生は大学等修学支援法ではなく従来制度による支援の対象とされているところであるが、大学院生は将来の学術の発展を担うとともに、現時点でも研究者としての役割を担っており、こうした役割をも考慮した支援が求められる状況にある。
こうした状況の中、新型コロナウイルス感染症の影響による学生の経済的困窮は、学生の経済的厳しさを改めて浮き彫りにし、抜本的な支援拡充策の必要性を示している。
高等教育の漸進的無償化にむけて、大学等修学支援法の実施状況を検証し、対象を中間所得層もカバーするよう拡充することを求める。大学院生に対しては、大学院生の生活と学業はもちろん、その役割を考慮した支援の充実を求める。
Ⅳ.諸団体との連携と社会へのアピール関連
1.諸団体との連携と社会へのアピールを推進すること。
日本学術会議や国立大学協会をはじめとする高等教育・研究関連諸団体と連携し、運営費交付金の基盤的経費の削減による大学等の厳しい現状とその十分かつ安定的な措置の重要性について、引き続き積極的に社会にアピールすることを求める。