「国際卓越研究大学法」の成立に当たって
全大教中央執行委員会は、制度の具体化の過程で「附帯決議」に盛られた内容の実質化を含め、大学ファンド運用益の幅広い大学支援への活用、大学自治に基づいた研究保障、運営費交付金等の充実に向けて引き続き努力を行っていくものです。2022年5月24日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
声明
「世界と伍する研究大学」を造ることを目指すとして、10兆円規模の大学ファンド運用益で支援を行う大学のあり方を規定する「国際卓越研究大学法」が、衆参両院でそれぞれ数時間の質疑という拙速な審議のみで5月18日に参院本会議で可決・成立しました。
私たち全大教中央執行委員会は、「政府による『大学ファンド』『世界と伍する研究大学』の検討に関する見解」(1月25日)で、研究力後退に歯止めをかけるためにはファンド運用益を基盤的経費不足で苦しむひろい範囲の大学への支援に活用することが必要だと訴えました。また「国際卓越研究大学」の条件として、①事業成長3%を求めることでより「儲かる研究」への拍車がかかり「選択と集中」の弊害が深刻化する、②「合議体」なる学長選任や経営戦略策定を行う最高意思決定機関設立は大学自治の一層の形骸化を招き、学問の自由に基づいた研究力の発展を阻害する、等の点を指摘し、徹底審議を通じた是正を求めて来ました。そのために、衆議院文部科学委員会並びに参議院文教科学委員会の所属議員やマスコミ等の懇談会や要請活動を行って来ました。
衆参両院において、参考人質疑も行われないまま短時間の審議で採決が行われたことは非常に遺憾です。政府は、当初に法案提出理由で掲げた抽象的説明を繰り返すのみで、質疑で呈された多くの疑問はいまだ解消されないままです。しかしながら両院委員会で採択された「附帯決議」の内容には私たちの訴えてきた諸点も多く盛り込まれたことは運動の成果と言えます。また委員会質疑では与野党を問わず、①国立大学法人の研究力後退は法人化以降の運営費交付金の実質減による安定的研究費不足や多忙化による研究時間減少等に原因が求められる、②研究力後退に歯止めをかけるには一握りの大学への支援集中ではなく国立大学全体への支援などで研究力のすそ野を広げる必要がある、③ビジネスと大学での研究は本質的に異なるのであり、創造的研究を支える基礎研究には長期的な資金と安定した研究職の保障が必要である、④学問の自由を保障する大学自治の尊重こそが大学の研究力発展の礎である、⑤事業成長3%増の条件化は「儲かる研究」への傾斜と学生負担の増加が懸念される、などが指摘され、認識が共有されました。
今後は、この法律の運用の詳細を規定する政省令や「基本計画」等が定められていきます。その中で、3%成長の算出ベースである「事業収入」の具体的内容や、大きな懸念がある大学運営への政治的介入強化、学生負担増等の多くの重要な点が規定されていきます。また、国立大学法人については、「国際卓越研究大学」に求められる「合議体」設立には「国立大学法人法」改正が必要で、これがすべての国立大学に大きな影響を及ぼすことが危惧されます。
全大教中央執行委員会は、制度の具体化の過程で「附帯決議」に盛られた内容の実質化を含め、大学ファンド運用益の幅広い大学支援への活用、大学自治に基づいた研究保障、運営費交付金等の充実に向けて引き続き努力を行っていくものです。