中央労働委員会(以下、中労委)は、国家公務員に準じた給与臨時減額(最高9.77%)をめぐる全国大学高専教職員組合(以下、全大教)と独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、機構)との団体交渉における不当労働行為の再審査申立を棄却した(8月29日受取)。
中労委命令は、東京都労働委員会(以下、都労委)命令(2014年10月21日)の不当な判断を基本的に踏襲するものであり容認できない。以下、中労委命令の不当性について批判し声明とするものである。
1. 誠実交渉義務の要件を引き下げるのでは、組合の団体交渉権は保障されない
全大教は「都労委命令は、本件が、被申立人側の申入れによる一方的な賃金切り下げをテーマとする団体交渉の在り方が問題となっている事案であることを全く考慮しない誤った判断である。本件における被申立人の誠実交渉義務は、通常の組合側申入れにかかる労働条件の向上に関する団体交渉における使用者の誠実団交義務とは質的に異なる高度なものである。本件では、賃金の大幅減少という不利益を労働者に受忍させるにふさわしい真剣かつ公正な交渉が求められていたというべきであって、本件で行われた被申立人の説明や資料提供では、到底それに足りない。」(再審査理由書2頁)ことを主張し再審査を求めた。
しかし中労委は、機構の提出した資料が「組合が要求した資料そのものではないとしても」「これらの資料等をもとに実質的な交渉が可能であった」(命令35頁)と推断し、給与削減の根拠についても組合に説明したとし「機構の対応は、不誠実であったとまではいえない」とした。
このような判断基準では、使用者側が申し入れた賃金の不利益変更にもかかわらず、使用者側は組合が要求する資料を提出しなくとも、ともかく関連資料を提出し説明さえすれば、組合の納得などとは関わりなく誠実交渉と認定されることとなる。
こうした中労委の姿勢では、対等な労使交渉を促進する労働組合法の主旨を徹底することはできないし、憲法28条で規定する団体交渉の権利を保障するための第三者機関の役割を果たしていないと言わざるを得ない。
2. 交渉の行き詰まりは団交拒否を適法とするための恣意的な判断である
機構が給与臨時減額実施を宣言した第3回交渉において、組合は次回交渉を口頭で申し入れた。それは「7月1日から賃下げが実施される可能性が極めて高まったという段階における申立人側からの団交申し入れであり、その要求内容が、賃下げ実施の場合の減額率の緩和、実施期間の短縮、代償措置、種々の交換条件等であることは自明である。要求内容が不明確であるなどとして、この団交申し入れを拒否することは許されない」(再審査理由書3頁)のであり、この交渉申し入れを機構が拒否したのは、まさに典型的な団交拒否であり不当労働行為である。
しかし、中労委は、機構の団交拒否の事実は認めたものの、組合の団交申し入れを「臨時減額支給措置の実施そのものを団交事項とするものと解するほかない」と意図的にすりかえ、交渉は行き詰まりの状態と認定し「正当な理由のない団交拒否とまではいえない」(命令43頁)と団交拒否を正当化した。あまりに使用者側に偏ったもので公正な判定とは程遠いものである。
3. 組合の交渉姿勢について都労委命令の誤りを是正したのは当然である
都労委は「物件費削減についての法人の努力は組合に説明されており、組合からはそれ以上の具体的な追及や質問もされていないのであるから、法人が包括的抽象的な説明に終始しているとの組合の主張は、採用することができない。」(都労委命令36頁)と、組合が追及しなかったという悪意に満ちたと言わざるを得ない事実認定があった。
これに対し全大教は、「組合は十分な追及をしたのに対し機構が誠実に応じなかったというのが事実であるが、都労委命令は、組合の追及が不十分であったと根拠なく評価」したとしたうえで、「会社が具体的資料を提示して具体的根拠を十分に説明しなければ、誠実交渉義務違反になると考えるべきであって、その際の労働組合の追及が不十分であったことをもって会社の説明義務を軽減することは許されないというべきである。また、そもそも不利益変更の必要性・合理性を基礎づける資料が会社から出されてはじめて、労働組合は資料に基づく追及をすることが可能になるのであるから、議論の土台となる資料が出されず、情報を得られない状況で、労働組合が具体的な中身のある追及・交渉をすることは不可能である。」(再審査理由書12~14頁)と主張した。
これを受けて、中労委は改めて全大教が求める証人審問を行い、その証言内容等を踏まえ、組合の交渉姿勢を問題とした都労委の誤った事実認定を是正しているが(命令書33~39頁)、当然のことである。しかし、中労委がその結論として、機構側の説明や対応について、「不誠実なものであったとまではいえない」としていることは、既に述べたとおり、使用者を不当に擁護するもので、誤りである。
4. 誠実な労使交渉を求め、労使の信頼関係構築を目指す
中労委側から和解が勧告されたことから、全大教は今後の労使関係の正常化をめざし機構側に和解案を提出し協議を申し入れた。しかし、機構が頑なに拒否したことにより和解ができなかったことは大変残念であった。
機構が、今回の労働委員会事件を契機として教職員の賃金・労働条件の改善に向けた労使交渉を誠実におこなうことを強く求めるものである。
同時に、全大教も緊張感のある労使関係の形成と、労使間の信頼関係を築くことに努力することを表明し、そのことによって教職員が希望をもって教育研究活動にあたることのできる国立高等専門学校となることを目指すものである。
(関係資料)
2016年8月 高専機構事件中央労働委員会命令
2015年2月3日 全大教再審査理由書
2014年10月21日 高専機構事件東京労働委員会命令