
国立大学法人評価委員会「視点」に対する見解
2009年4月18日
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
本年2月5日、「各国立大学法人 中期目標・中期計画担当理事」宛に、「文科省高等教育局国立大学法人支援課長・永山賀久」名で、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点について」と題する「事務連絡」が通知され,別添資料として国立大学法人評価委員会が作成した「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」(以下「視点」と略)が付されていた。この「視点」は、今後、文科省における国立大学の組織及び業務の見直しの「内容」を策定するための、骨格となる文書である。以下、この「視点」に対して、全大教としての批判的見解を整理しておきたい。
(資料)2009年2月5日付 文科省事務連絡「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点について」
https://www.zendaikyo.or.jp/siryou/2009/090205-monka-minaosi.pdf
1, 国立大学に対する国民の期待と、財務省・総務省のスクラップ案の狭間で揺れる「視点」
文部科学省は、財務省や総務省による国立大学統廃合圧力や大学財政縮減に対して、不十分ながら抵抗してきたことを、私たちは承知している。しかし「視点」は、国家財政危機の一層の進行という新しい状況の下、ともすれば、国民の国立大学に対する期待から離れ、財務省の「選択と集中」の論理に傾斜していると言わざるを得ない。
「視点」は、行政改革と競争原理の枠組みに規定されている。また、国立大学法人法等4法案の国会審議でも厳しく戒められた政府、文科省による大学の誘導・統制につながる危険性を有している。
2, 第一期中期目標の総括を踏まえた次期中期目標・計画の作成を
大学評価・学位授与機構や文科省並びに総務省による組織及び業務実績の評価は中期目標・計画に書き込まれた内容に沿って行われる。第一期は時間的制約の中で、多くの大学で教職員の意見や思いとはかけ離れたところで中期目標・計画が策定され、それがその後の大学の教育研究、医療にとって大きな桎梏となっていた。
第一期中期目標期間で顕在化した大学間格差の拡大、基礎基盤的経費の削減、競争的環境の激化の下での教員間の連帯意識の希薄化、多重な評価実務、膨らむ委員会業務や自己収入拡大のための事務作業等による教職員のメンタルヘルス問題、学長選考等をめぐる紛争など国立大学法人化以降顕在化した問題は、中期目標・中期計画と密接に絡んでいる。
今後文科省として、「視点」をふまえ、組織及び業務全般の見直し内容について、6月を目途に、提示するとしているが、次の点に十分留意すべきである。
第1に、上述した第1期中期目標期間における負の側面を克服する方向を提示すべきである。
第2に、細部にわたる誘導的見直しではなく、大学の自主性・自律性を尊重し、それが活かされるような基礎基盤の充実や教職員のモラールが高まる風通しの良い大学運営等を支える眼差しこそが求められる。
第3に、大学運営をめぐる課題について述べる。
まず、現職学長の意思がそのまま通りかねない事態や教職員の少数の支持しか得られない学長が選考されかねない現在の学長選考制度のあり方を見直し、透明性・説明責任が担保され、教職員多数の意思が反映できる学長選考制度を確立すべきである。
また、大学の経営事項に意見を求める学外者が、真に見識があり、大学の研究教育に深い造詣のある人物となるような仕組みやチェックが必要だ。単なる地方名望家や、大学への納入企業の経営者などに意見を求める意味が問われるようなケースもある。国立大学法人制度の下では,国立大学法人法第20条第4項において経営協議会の審議事項が規定されている。その趣旨は,経営に関する事項は経営協議会の審議事項であるが、教育研究に関する事項は教育研究評議会の事項であると明確に峻別することであり,このことこそが尊重されるべきことである。「視点」が述べている経営協議会の経営等の審議事項については,経営協議会が本来有しない権限を行使しないよう,慎重な運営が必要である。
3, 大学の自律的で個性ある発展こそ必要、公的財政支出を拡充しながら見守るべき
「視点」のキーワードのひとつが「機能別分化」である。しかし「視点」自身が述べているように、国立大学はすでに、「規模・特性・状況等は千差万別」である。もっとはっきり言えば、旧帝国大学と地方大学や単科大学では、運営費交付金の額に大きな格差が存在する。附属研究所等を数多く保有する旧帝国大学に運営費交付金が厚く配分されるように、ルール自体が、格差を広げるようにできているからだ。地方国立大学や単科大学は、そうしたハンディを負いながらも、すぐれた研究と教育の実を揚げていることは、認証評価によって明確になっている。
今回の「視点」での「機能別分化」の強調は,すでに2008年9月30日に同じく文部科学省高等教育局国立大学法人支援課長名で提示されている「国立大学法人の第二期中期目標・中期計画の項目等について」の別添資料で示されている。
それは、中期目標の前文に「大学の基本的な目標や使命を,中央教育審議会答申『我が国の高等教育の将来像』(平成17年1月28日)に掲げる大学の機能別分化に関する考え方等も参考にしつつ,自らの特性を踏まえ一層の個性化を図る観点から,明確かつ簡潔に記載してください」と記されていることをふまえたものとなっている。
ここでいわれている中教審答申では,大学の機能を全体として,①の世界的研究・教育拠点から⑦の社会貢献機能まで7つに分類したうえで,「各々の大学は自らの選択に基づき,これらの機能のすべてではなく一部分のみを保有するのが通例であり,複数の機能を併有する場合も比重の置き方は異なるし,時宜に応じて可変的でもある.その比重の置き方がすなわち各大学の個性・特色の表れとなる.各大学は,固定的な「種別化」ではなく,保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違い(=大学の選択に基づく個性・特色の表れ)に基づいて,緩やかに機能別に分化していくものと考えられる」と述べている。
日本の高等教育全体のなかで,大学の「種別化」ではない大学の個性・特色を活かした自律的発展こそ必要である。
文科省は、拙速に「機能別分化」を押しつけるのではなく、大学・高等教育総体の中期的発展方向について高等教育への公財政支出の拡充や大学間格差是正策を含めた大学・高等教育の発展策について大学関係者とともに策定し、政府、国会、産業界等の関係機関や社会との真摯な議論と合意形成を行うべきである。
ようやく第一期中期目標期間が終わろうとしているこの時期に、拙速に各大学に「機能別分化」を示すことは慎むべきである。文科省は,上述した観点での検討を大学関係者とともに進めつつ、当面第二期中期目標期間に向けて、大学としての教育と研究を保障し、各大学において,強い一体性をもつ教育と研究をともに伸長していくことを,制度的にも財政的にも支援していくことこそが必要だと考える。それが国民の望む高等教育行政のあり方であろう。
4, 各論について
「視点」の各論については、全大教として別添の「国立大学法人第二期(2010~2015年)中期目標・中期計画策定に関する全大教重点要求(チエックリスト)」において基本的考え方と要求を提示しているのでそれをもって私たちの意見に変えたい。
(https://www.zendaikyo.or.jp/katudou/kenkai/daigaku/09-04jyutenyoukyu.pdf 参照)
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