◆東京大学大学院経済学研究科教授 伊藤正直
　 「国民が国家を監視し機能させる」（2006年3月  第201号）

◆国立天文台天文情報センター長 渡部潤一
　 「正しい情報を伝えることが我々の役目」（2006年4月  第202号）

◆一橋大学大学院社会学研究科教授 林大樹
　 「まちづくりと新しい大学教育の創生」（2006年5月  第203号）

◆宇都宮大学教育学部教授 益子詔次
　 「食をつくり、身体を鍛え、心を育む」（2006年6月  第204号）

◆京都大学大学院文学研究科教授  川添信介
　 「全体を統一的にみるということ」（2006年7月  第205号）

◆新潟大学超域研究機構教授 白石典之
　 「過去から学び未来へ提言する」（2006年8月  第206号）

◆東京大学大学院農学生命科学研究科教授 空閑重則 
　「結晶性多糖の謎を解き新しい利用法を作り出す」（2006年9月  第207号）

◆群馬大学教育学部教授 山西哲郎
　 「心を触れ合わせ、社会の風に」（2006年10月 第208号）

◆名古屋大学大学院生命農学研究科教授 高倍鉄子
　 「耐塩性のメカニズム研究で地球温暖化問題に貢献する」（2006年11月 第209号）

◆東北大学大学院理学研究科教授 山下正廣
　 「大きな夢を持ち続けること－新しいフィールドの創造」（2006年12月 第210号）

◆静岡大学教育学部技術教育講座教授 松永泰弘
　 「子供の感興をそそる『技』、強さと良識を兼ね備え社会へ」（2007年2月  第212号）

◆神戸大学大学院自然科学研究科教授 竹田真木生 
　「昆虫の多様性から学び、生命機能を解明する」（2007年3月  第213号）

◆岡山大学大学院自然科学研究科助教授 鈴木茂之
　 「人類が自然と共生する方向性を見出すことが大学の使命」（2007年4月  第214号）

◆信州大学繊維学部機能機械学科教授 森川裕久
　 「環境と人にやさしい機械の創造－ものづくりの喜び」（2007年5月  第215号）

◆首都大学東京都市教養学部准教授 野元弘幸
　 「文化芸術から知の伝達を学ぶ－多文化社会における教育」（2007年6月  第216号）

◆佐賀大学農学部生物環境科学科准教授 染谷孝
　 「日本をリードする佐賀発環境運動」（2007年7月  第217号）

◆九州大学大学院芸術工学研究院教授 重松敏則
　 「『花鳥風月』を愛でる心－環境保全と自然環境復元」（2007年9月  第219号）

◆東京海洋大学海洋科学部教授 瀬川進
　 「ナチュラリストの育成と教育－アオリイカの種分化の解析」（2007年10月 第220号）

◆電気通信大学電気通信学部教授 福田喬
　 「宇宙システムの安全確保－新しい科学技術の創生・実現」（2007年11月 第221号）

◆金沢大学理学部地球学科教授 田崎和江
 　「地域貢献できないサイエンスなんてありません」（2007年12月 第222号）

◆東京芸術大学教授　土田英三郎
　「音楽を通して広く世界や文化、歴史を見る」（2008年2月　第224号）

◆東京農工大学農学部教授　高田秀重
　「プラスチックごみから地球規模の海洋汚染をモニタリング」（2008年3月　第225号）

◆高エネルギー加速器研究機構放射線科学センター教授　桝本和義
　「安全確保に必要な研究と正確な情報の発信」（2008年4月　第226号）

◆山梨大学大学院医学工学総合研究部教授　竹内智
　「循環型経済へのステップと持続可能な社会へ挑戦」（2008年5月　第227号）

◆東京学芸大学人文社会科学系教授　君島和彦
　「生きた知識として歴史を活用する」（2008年6月　第228号）

◆島根大学法文学部社会文化学科教授　出口顯
　「時間を越え星雲のごとく存在する神話を読む」（2008年7月　第229号）

◆岐阜大学教育学部教育学研究科教授　長野宏子
　「人々の『生活の知恵』のすばらしさを次世代へ」（2008年8月　第230号）

◆福島大学人文社会学群人間発達文化学類教授　嶋津武仁
　「感覚と理性、直感と客観の間で音楽を創造」（2008年9月　第231号）

◆横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授　永岑三千輝
　「歴史の実相認識を深く広く豊かに」（2008年10月 第232号）

◆埼玉大学経済学部社会環境設計学科教授　本城昇
　「『天地有機』、自然への優しい透徹した眼差し」（2008年11月 第233号）

◆茨城大学工学部電気電子工学科教授　栗原和美
　「地球環境に優しい高性能モーターの実現に向けて」（2008年12月 第234号）

◆東京大学特別栄誉教授　小柴昌俊
　「基礎科学の充実が国を発展させる」（2009年1月　第235号）

◆宮城教育大学教育学部音楽教室講座教授　水戸博道
　「音楽家の視点から科学的に音楽を究明する」（2009年2月　第236号）

◆京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科教授　並木誠士
　「美術の歴史と美術作品の新たな見せ方を探求する」（2009年3月　第237号）

◆京都大学名誉教授　益川敏英
　「大学の運営費に関わる部分と研究費は厳格に分けて、申請書が要らない最低限の研究費が確保されなければならない」（2009年4月　第238号）

◆茨城大学農学部地域環境科学科准教授　黒田久雄
　「泳げる霞ケ浦をめざして－水質汚染原因の窒素を無害に－」（2009年5月　第239号）

◆名古屋工業大学電気電子工学科教授　市村正也
　「電源とビーカーで製造できる太陽電池の開発」（2009年6月　第240号）

◆山口大学大学院理工学研究科教授　大和田正明
　「大陸移動の歴史とメカニズムを明らかに」（2009年7月　第241号）

◆富山大学理学部准教授　横畑泰志
　「モグラを日の当たる生きものに」（2009年9月　第243号）

◆小樽商科大学商学部教授　荻野富士夫
　「歴史学の観点から多喜二の人間像に迫る」（2009年11月 第245号）

◆岩手大学農学部准教授　横井修司
　「花さか遺伝子を解析し新知見の提供・応用へ」（2009年12月 第246号）

◆大阪大学大学院工学研究科教授　河﨑善一郎
　「世界唯一の装置で環境・気象観測に貢献」（2010年2月　第248号）

◆三重大学人文学部法律経済学科准教授　森久綱
　「地産地消による資源循環型農業の構築に向けて」（2010年3月　第249号）

◆九州工業大学工学研究院教授　赤星保浩
　「スペースデブリ（宇宙ごみ）から衛星を守る」（2010年4月　第250号）

◆一橋大学大学院社会学研究科教授　糟谷憲一
　「朝鮮王朝の権力構造と近代史の関連を追究」（2010年5月　第251号）

◆京都大学大学院経済学研究科教授　大西広
　「マルクス歴史理論の数学化を実現」（2010年6月　第252号）

◆山形大学理学部地球環境学科教授　柳澤文孝
　「蔵王の樹氷が語る地球環境の激変」（2010年7月　第253号）

◆宇宙航空研究開発機構（JAXA）宇宙科学研究所教授　阪本成一
　「宇宙へ飛び出すことで地球がわかる」（2010年8月　第254号）

◆名古屋大学大学院法学研究科教授　和田肇
　「働く意味、法的正義を問い直す」（2010年9月　第255号）

◆東京大学史料編纂所教授　鶴田啓
　「史料学・日本史研究の発展のために」（2010年10月 第256号）

◆福井大学大学院教育学研究科教授　森透
　「民主的な国民の良識によって教育は良くなる」（2010年11月 第257号）

◆島根大学生物資源科学部生物科学科准教授　松崎貴
　「毛・皮膚の細胞を遺伝子レベルで解明へ」（2010年12月 第258号）

◆愛知教育大学保健環境センター環境安全部門講師　榊原洋子
　「健康・安全で快適なキャンパス環境の創造」（2011年2月　第260号）

◆東京農工大学大学院農学研究院教授　梶光一
　「次世代型野生動物管理システムの構築むけて」（2011年3月　第261号）

◆九州大学農学研究院生物資源開発管理学部門　高木正見
　「環境保全型農業の確立と普及に向けて」（2011年6月　第264号）

◆都城工業高等専門学校技術支援センター長　川崎敬一
　「『灯りを届けたい』クリーンエネルギーの技術と実践」（2011年7月　第265号）

◆沼津工業高等専門学校物質工学科特任教授　渡辺敦雄
　「正しい情報を知り、正しく恐れ、行動する」（2011年9月　第267号）

◆筑波大学付属高等学校物理科教諭　鈴木亨
　「“授業は戦い”生徒が『わかる』ことを目指す」（2011年11月　第269号）

◆東北大学大学院情報科学研究科教授　関本英太郎
　「今、私にできることを－復興の記録を撮っていく」（2011年12月　第270号）
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『国立大学の存在意義とは』　　和田 肇 名古屋大学大学院教授

　9月20日に文部大臣は、国立大学の学長等の前で国立大学の独立行政法人化に向けて本格的な検討に入ることを明らかにした。文部省は、それまで国立大学の独立行政法人化に反対であったから、姿勢が大きく変わったことになる。行政改革という政治の流れに抗しきれなくなったということなのかもしれない。しかし他方で、国立大学協会は9月13日に、従来の方針通り、国立大学の独立行政法人化に反対の態度を確認している。全大教も、一貫して国立大学の設置形態の変更に反対の立場をとってきた。また、この間のマスコミの論調でも、積極的に独立行政法人化を支持するものは見られず、国立大学の設置形態の変更に多くの問題点があることを指摘している。
　我々大学人には大きな課題が課せられているにもかかわらず、この問題について大学人が何を考えているかは、納税者に向かって、あるいは教育の受益者に向かってこれまで必ずしも十分に説明されてこなかった。国立大学の設置形態の変更のどこに問題があるのか、私の個人的な意見を述べてみたい。
　私が一番大きな問題だと考えているのは、国立大学の設置形態の変更が、高等教育や科学技術研究に対する国の責任の大きな後退をもたらすという点である。かつて日本の大学では牛乳瓶をビーカー代わりに使っているという話が話題になった。こうした状況は少しは変わってきているものの、日本の研究条件の相対的な貧困状態は基本的に今日でも変化がない。高等教育に対する公財政支出をＧＮＰとの割合で見ると、アメリカが1.1％、ドイツとフランスが0.9％、イギリスが0.7％などとなっているのに対し、日本は先進国の中で最低で0.5％にすぎない。この条件で日本の大学は自然科学を中心に研究面でもこれまで欧米の大学に伍してきている。そのことの方がむしろ不思議なくらいである。
　大学審議会や文部省などが公財政支出の貧困さを指摘し、改善を求めてきた。しかし、国の行財政改革の一環として今回の大学改革が出てきていることを考えると、今後高等教育に対する公財政支出が増額されるどころか、むしろ削減されていくのではないかという懸念が出てきても当然であろう。国立大学が独立行政法人化すれば、大学の経営責任が問われ、大学は民間資金の導入に積極的にならざるをえなくなる。しかし、現在の企業風土や法制度面等から、アメリカのように民間企業の研究投資が大幅に増額するとは考えにくい。また、応用科学研究が進行する反面で、基礎科学研究が蔑ろにされる危険も否定できない。
　ヨーロッパの多くの国では、高等教育が無料かあるいはかなり低額で行われている。真剣に学びたい学生に平等に教育を受ける権利を保障するのは国の責任である、という明確な思想がそこにはある。このことがまた、ヨーロッパの大学が、他の国、とりわけ発展途上国から多くの留学生を迎い入れることにも役立っている。日本の現在の国立大学の授業料ですら高いが、国立大学に経営論理が持ち込まれるとそれはさらに高くなるであろう。そうすると、国民の教育を受ける権利が侵害されることになるし、おそらく外国人留学生は日本にいっそう興味を示さなくなるであろう。今回の国立大学の設置形態の変更は、こうした選択肢を突きつけているのである。
　さて、このことを前提に現在出されているいくつかの疑問にも答えておきたい。
　日本では学生数にして四分の三が私立大学で学んでおり、私立大学でも十分研究教育を担えるのではないか、という意見を聞く。私自身、教育研究における私立大学の役割を否定するものではないし、そこでの教育研究の一層の充実が必要であると考えている。その意味では、私立大学の経常経費に占める補助金の割合が、1980年度の29.5％を頂点に、以後下がり続け九六年度には12.1％にしかすぎなくなっている点にこそ問題がある。多くの私立大学では、教育科目の相当部分を非常勤の教員でまかなわざるをえないという異常な状況にある。
　また、これまでの日本の高等教育は、国立（公立）大学と私立大学の間で役割を分担しながら担われてきた。一例であるが地震研究、宇宙物理学、素粒子物理学等の学問分野は、圧倒的に国立大学が担っている（もちろん私立大学にあって国立大学にないユニークな学問分野もあるが）。その理由は明らかであろう。国立大学の設置形態の変更には、その先に民営化＝私立大学化もあると言われているが、そうなったときの学術研究には一体誰が責任を負うのか。経営論理が強く入り込むと、多くの学問分野が削減されたり、消滅していくことは、欧米の先行例が教えてくれている。そして、実はこうした分野は文化に関係しているのである。
　以上、国立大学の設置形態の変更に反対する私なりの理由を述べてきたが、このことは国立大学が何も変革をしないでよいことを意味しているわけではない。例えば、大学設置基準の大綱化以降の改革によって大学の教養教育は破綻してしまっているが、これを立て直すことが急務であるし、大学院重点化によって教育研究に何がもたらされたのかを真剣に検証してみる必要がある。企業社会と同じようにセクシャル・ハラスメントが発生したり、非合理的な人事配置が行われることがあるといったことも、今後の改革課題である。大学と社会との関係のあり方を再検討する時期にも来ている。そして、何よりもこうした課題を我々が自覚する必要があるだろう。傍観と諦観からは何も生まれないからである。

＜補足＞
　なお「日本経済新聞」のリ－ドは次のようになっています。「全国大学高専教職員組合（全大教）委員長を務める和田肇・名古屋大学教授は、行財政改革の論議の中で浮上した国立大学の独立行政法人化は、高等教育に対する公財政支出の削減につながる懸念があると指摘する。和田教授に、独立行政法人化の問題点について寄稿してもらった。」
　また、見出しとして「国立大学の独立行政法人化の問題点」「乏しい財政支出　一段の削減懸念」「授業料の高騰や基礎研究後退も」が付いています。
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