「市場化テスト」に重大な危惧を表明する
見解全大発 67 通知 46
2010年4月2日
各単組委員長 殿
全国大学高専教職員組合
書記長 森田 和哉
中央執行委員会見解『大学図書館等の研究教育機能の低下につながる「市場化テスト」に重大な危惧を表明する』の公表について
政府は、国立大学法人の図書館業務等への「市場化テスト」制度の適用を視野に入れて、内閣府において検討を開始しました。内閣府に設置されている官民競争入札等監理委員会の公共サービス改革小委員会国立大学法人分科会は、首都圏の七国立大学から業務内容についてのヒアリングを実施しています。また、全国の国立大学附属図書館に対しては、十四項目の業務に関して外注化の状況を問い、外注化していない場合にはその理由を、外注化している場合には入札の方法などを詳しく聞いています。
中央執行委員会は、このような状況を踏まえ、別紙のとおり国立大学附属図書館へ「市場化テスト」を適用することに危惧を表明する見解を発表し、内閣府へ送付しました。
それぞれの単組でも当見解等を活用され、この問題に取り組まれることを要請します。
参考:
● 内閣府公共サービス改革(市場化テスト)官民競争入札等監理委員会国立大学法人分科会
http://www5.cao.go.jp/koukyo/kanmin/kokudai/kokudai.html
● 東京大学職員組合図書館職員部会要望書「国立大学図書館業務への「官民競争入札」(市場化テスト)導入の動きに関する要望書
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/kokudaikyo20100302.pdf
2010年4月2日
見解
大学図書館等の研究教育機能の低下につながる「市場化テスト」に
重大な危惧を表明する
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
政府は、国立大学法人の図書館業務等への「市場化テスト」制度の適用を視野に入れて、内閣府において検討を開始した。
内閣府に設置されている官民競争入札等監理委員会の公共サービス改革小委員会国立大学法人分科会(以下、「分科会」という)は、首都圏の七国立大学(東大、東京医科歯科大、学芸大、東工大、お茶大、一橋大、政策研究大学院大)から業務内容についてのヒアリングを実施している。また、全国の国立大学附属図書館に対しては、十四項目の業務に関して外注化の状況を問い、外注化していない場合にはその理由を、外注化している場合には入札の方法などを詳しく聞いている。
「市場化テスト」とは、官業の民間開放を目的とする官民競争入札制度であり、小泉内閣(二〇〇一年四月二六日~二〇〇六年九月二六日)の末期に成立した「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成十八年六月二日法律第五十一号、以下「市場化テスト法」という)によって導入された。
内閣府は、この制度について、「これまで『官』が独占してきた『公共サービス』について、『官』と『民』が対等な立場で競争入札に参加し、価格・質の両面で最も優れた者が、そのサービス の提供を担っていくこととする制度」と説明している。地方公共団体には、公立図書館・市民会館等の「公の施設」の業務の民間委託制度として、「指定管理者」制度等が導入されているが、「市場化テスト」もそれらと同様、公共サービスの民間事業者への委託を進めることにより「効率化」を図ろうとするものである。
全大教中央執行委員会は、図書館業務等に「市場化テスト」制度が導入されれば、国立大学法人の教育研究機能を低下させ、大学図書館間の連携強力を阻害する虞があるものと考え、この動きに重大な危惧を抱くものである。
「市場化テスト」制度導入には次のような問題点があり、これを看過することはできない。
第一に、図書館業務の全部またはその一部を各国立大学法人の管理機関から独立した民間事業者に委ねることは、国立大学法人が教育研究業務を効果的かつ効率的に遂行することを著しく妨げる虞がある。
大学図書館の業務は大学における教育研究と不可分一体の関係にあり、大学図書館は教育研究上の必要に応じて開館時間やサービス内容を柔軟に改善し、業務の改善・向上に努めている。これは大学図書館が国立大学法人の組織として一体的に管理運営されているからこそ可能である。「市場化テスト」を導入すれば、業務内容を予め定めた契約に基づいて図書館業務を民間事業者に委託することとなり、その委託部分については教育研究の必要に基づく業務改善は阻害される可能性が大きい。
第二に、図書館業務は全体として不可分一体なものであり、その一部を民間事業者に委ねることは図書館業務の効果的・効率的な遂行を阻害する虞がある。
図書館業務は選書/発注・受入・目録作成・装備・索引作成・利用者対応・配架・閲覧環境整備・貸出・複写サービス・蔵書点検・製本・資料補修/劣化資料対策・図書館運営に関する統計資料作成に分類できる。現在はこれらの業務を一体のものとして、各国立大学法人が自ら管理している。この中には、民間事業者が作業をしているものもあるが、その業務・作業は大学自身が管理しているのである。しかし、「市場化テスト」制度による民間事業者に図書館業務を委託する場合、その業務管理も含めて民間事業者に委ねることとなるため、図書館業務の一体性は失われ、図書館業務の効果的・効率的な遂行が阻害される虞がある。
第三に、図書館業務のノウハウが蓄積されず、また国立大学法人から図書館管理の能力が失われる可能性があることである。
国立大学法人はこれまで、職員の中から図書館長を選出するとともに、学内に図書館管理機関を置き、さらに図書館業務の中核に正規職員を配置することにより、図書館管理の能力を保持・再生産してきた。国立大学法人が自ら図書館管理能力をもつことは、教育研究業務を主体的に行っていくうえできわめて重要である。「市場化テスト」により図書館業務の全部または一部が民間事業者に委ねられることになれば、大学から図書館管理能力が失われ、再び取り戻すことはきわめて困難となる。このため、図書館業務が一旦民間事業者に委ねられると、当該契約期間終了後の入札に当該大学が参加することにも困難が生ずると考えられる。
また、図書館業務を民間事業者に委ねると、その間に蓄積された情報やノウハウは当該事業者に移転され、その後国立大学法人が自らの大学図書館の情報やノウハウを蓄積できなくなる可能性がある。このことが教育研究の推進に及ぼす悪影響は甚大である。さらに、一旦ある事業者に図書館業務が委託されると、上述した理由により事業の独占化が進み、他の事業者が参入することが困難となり非効率を生み出す可能性が高い。したがって仮に「市場化テスト」を推進する立場に立ったとしても、国立大学法人の附属図書館に「市場化テスト」を導入することに根拠はない。
第四に、図書館相互の連携協力に重大な支障を生ぜしめる虞がある。
図書館は単独で業務を遂行しているわけでなく、図書・資料の相互利用や情報の共有などにより図書館ネットワークを形成し相互の連携協力により図書館業務を遂行している。しかし、「市場化テスト」により民間事業者を参入させることになれば、事業者間の競争関係が持ち込まれることとなり、図書館相互の連携協力関係が著しく阻害され、全国的・国際的な図書館ネットワークに重大な障害を生ぜしめる可能性がある。
第五に、国立大学法人への「市場化テスト」の適用は、国立大学法人制度を導入した趣旨に反する。
国立大学法人法は、教育研究を担う大学の特殊性に鑑みて行政機関とは異なる法人制度を創設し、その業務の効果的・効率的推進を各国立大学法人の自主性・自律性に委ねている。つまり、国立大学法人には国立大学法人法の下で教育研究機関にふさわしい方法による業務の改善が求められ、またそうした制度枠組みによる発展の道が確保されている。「市場化テスト」制度を適用することは、こうした国立大学法人制度の自主的・自律的な運営を阻害するものであり、国立大学法人法にも矛盾するものと言わなければならない。
第六に、効率化を目的に「市場化テスト」制度を導入した場合、民間事業者によって雇用される職員の労働条件は国立大学法人職員のそれよりも劣悪なものとなる可能性が高い。公的な役割を担う国立大学の附属図書館へ、そこに働く労働者の労働条件の劣悪化を招く虞のある制度を導入し、それによって雇用形態・勤務形態を多様化させることには重大な問題がある。
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