【見解】日本学術会議の在り方について-日本学術会議法人化方針の大きな問題点-
全国大学高専教職員組合中央執行委員会
要点
◎政府は「日本学術会議の政府からの独立性を担保するため」と称して法人化する方針を示したが、外部委員による「選考助言委員会」「運営助言委員会」の設置など、具体的な変更内容は、むしろ同会議の独立性を侵害するおそれが高い。
◎現行の日本学術会議法の枠内で、同会議の独立性を担保するのが妥当である。
1.十分な合意形成がなされたとは言えない日本学術会議法人化方針
政府は2023年12月22日、内閣府特命担当大臣決定として「日本学術会議の法人化に向けて」とする方針(「方針」)を発表した。
そこでは、国から独立した法人格を有する組織とするという、日本学術会議(学術会議)の組織体制を根本的に変更する方針が示されている。
この方針提示に至る議論は、2020年の学術会議会員の任命にあたり、政府が、それまでは学術会議の推薦に基づく形式的なものとしてきたものを、候補者のうちの6名の任命を拒否したことに端を発する。この任命拒否問題について、多くの学協会や大学、社会から、学問の自由を侵害するとの懸念が示されると、任命拒否の理由も明らかにしないままに論点をずらすかたちで学術会議の在り方に関する議論が提起された。そして、2023年には日本学術会議法の改正が検討されたが、この際にも学術会議と社会からの強い反発を受けて、法改正の提案は見送られた。
その後、内閣府に「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」(有識者懇談会)を設置して会議が開催されてきたが、学術会議の意見との隔たりは埋まらないままであり、今回の「方針」は十分な合意形成がなされたとは言えない状況で発表されたものである。
2.法人化方針の問題点
2.1 法人化しなければならない理由が明確ではない
今回の「方針」では、学術会議が「政府等からの独立性を徹底的に担保することが何よりも重要である」ので法人化を行うとしている。しかし、法人化しなければ政府からの独立性が担保されないのか、また、法人化すれば政府からの独立性が担保されるのか、という2つの側面からの疑問に対し、「方針」では明確な説明はされていない。
まず、法人化せずとも政府からの独立性を担保するには、①現行の日本学術会議法を厳格に遵守すること、②それで不十分であれば現行の組織形態でより独立性を高めるための法改正を行えばよいのではないか、そうした選択肢について、有識者懇談会で議論がつくされた形跡はなく、「方針」でも触れられていない。
次に、「方針」が言うように法人化すれば政府からの独立性が本当に担保されるのかどうかは、法人化したのちの組織運営に対し、政府が関与する度合をどう規定するかに依存する。個別論点は後述するが、今回の法人化の方針は、2004年に行われた国立大学の法人化を想起させる。法人化後の国立大学は、「大学の自主性・自律性」の美名の下、実際には、中期目標制度、各種の評価制度、予算配分等、そして数次に渡る国立大学法人法の改正による「ガバナンス強化」を通じ、それ以前よりも政府の影響を受けるようになったことを考えあわせると、学術会議の法人化には懐疑的にならざるを得ない。国立大学法人化の検証がないままに学術会議の法人化を行うべきではない。
2.2 会員選考は純粋な互選方式で
今回の「方針」では、会員選考について、一方で会員によるコ・オプテーション(互選)方式とするとしつつも、外部有識者からなる「選考助言委員会(仮称)」が、学術会議が選考方針を策定する際に意見を述べることとしており、学者の純粋な選考とはさせない方向性が示されている。会員人事は、学術会議が護り、保障されるべき、学問の自由の根幹部分であり、厳密に学術界の自治が保障されなければならない。「独立性を徹底的に担保する」ためには、この自治の保障こそ重要である。
会長選考について、「方針」では、会員の互選とすること、また、運営・活動に関する重要事項は総会の議決によること、幹事会の構成員は会長任命とすること、など組織が民主的に運営される最低限の仕組みは担保される提案を行っているが、会長について「常勤とすることも検討する」ことは、会長と他の役員、会員との非対称が極端になるおそれが強く、行うべきではない。
2.3 国からの財政支出を継続し、より充実することこそが必要
財政基盤について、「方針」では、学術会議が「活動・運営の活性化、独立性の徹底という観点からも、財政基盤の多様化に努める」としている。学術会議は、国内の多数個別の学協会の活動を基盤としつつ、その成果を統合して科学の発展や成果の普及、学術に関する国際交流を行っているのであり、直接、研究開発に携わって積極的に新たな科学的知見や付加価値を創出する立場ではない。そうした組織に対し、「財政基盤の多様化」という名目で外部資金の獲得を促すことは無理があり、学術会議の組織の目的から外れるものである。また、民間の外部資金に依存することは、独立性への懐疑を生み、その活動を歪めることにつながる。
運営方針や活動に関する政府からの独立を前提に、国からの財政支出は継続し、より充実していくべきである。
2.4 ガバナンスに関する改革方針が最大の問題
「方針」では、学術会議の組織運営(ガバナンス)について、いくつかの重大な問題のある提案をしている。
まず、学術会議外の委員が過半数を占める「運営助言委員会(仮称)」を置き、運営に関する重要事項について意見を述べる仕組みを求めている。この重要事項には、「科学的助言の内容等に関することを除く」とされているが、学術会議がどのような学術的成果を国民に発信していくか、などの活動そのものが学問の自由を構成しており、そこに外部委員が意見を述べることができる制度は不適切である。
また、学術会議に監事を置き、主務大臣が任命することとしている。組織に監事を置くことは必要と考えるが、任命権をもつ大臣が勧告権等の権限をもつ制度設計につながりかねず、懸念を抱かざるを得ない。
最大の問題点は、主務大臣任命の外部有識者による「日本学術会議評価委員会(仮称)」を置き、評価を行うという点である。この委員会が「日本学術会議に求められる機能が適切に発揮されているか」を評価するとされているが、これは、「方針」が冒頭述べている「政府等からの独立性を徹底的に担保すること」と相矛盾するものである。学術会議は政府から真の独立性を有するべきであると考えるのであれば、こうした仕組みの導入はまったく不適切である。
3. 学術の発展の基盤としての学術会議の在り方についての議論を
日本学術会議は、日本の学術界の力が最大限発揮され、世界の平和と人類の福祉に貢献できるための基盤となるべき組織である。そのために、学術会議には政府からの高い独立性が求められる。国民の理解の下で、集団的な学問の自由を擁護する組織として、存続し発展していかなければならない。研究者個人、個別の学協会の活動を超えて、科学の進歩と科学の成果の活用のために活動するには、その活動のための財政的基盤が必要である。その力の発揮のために、国からの財政支出の継続と充実が不可欠である。
政府には、学術会議を始めとする学術界との相互信頼に基づくコミュニケーションのうえで、学術の発展の基盤としての在り方についての議論を求めたい。